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と、小谷は人差指と中指を二本突き出して見せて、
と、練吉は急いで云つた。
冬近い冴えた日ざしが午過ひるすぎの河原町の長い、だが人気のない通り一杯に溢れていた。一体みんな何をしているんだらう、まさか軒並みに夜逃げしたわけでもあるまいのに、と呟つぶやきたくなるほど人の子一人いなかつた。そして、冴えているがしだいに温ぬくもりの増して来る日は、何だかのうのうと、つまり誰もいないので日そのものが路一杯にひろがつて日向ひなたぼつこをしているみたいであつた。
と、一向にそんなことを知らない房一が云つた。
「何にしても、えらいこつてしたなあ」
が、それは徳次であつた。
「あれは本当ですかね、相沢さんが訴訟を起したと云ふのは?」
彼は重ねた両膝の間に尻を落すやうにして坐つていた。それは七十近いこの年まで坐りつゞけ、他の坐方を知らない者に独特な、云はば正坐しながらあぐらをかいているやうな安楽げな恰好だつた。そして、何か話すたびに前へ首を落すので、その猫背はだんだんと前屈みがひどくなつて、胴から上が今にも両膝の間にのめりこんでしまひさうに見えた。が彼がすこぶる上機嫌でいることは房一の目にも見てとれた。
「それは、まあ、都会風でいけばそれでいゝわけだが」
「途中から帰つて来たんだよ」
「馬子まごにも衣裳つて云ふから――」と云つたほどである。
出て来たのは紅い手をした看護婦だつた。台所の方へ行つて何やらまごまごし、しばらく立つてから、
今泉はかすかに鼻のあたりを不満げにふくらませた。